写真を読み込んでいます
少々お待ちください

Niwayama Gallery 庭山ギャラリー

Artist

16  フラ・フィリッポ・リッピ/Fra Fillipo Lippi(1406-1469)

1437年 タルクイニアの聖母子/Madonna di Tarquinia(ローマ国立美術館) Panel

フィリッポは、ほぼ10年先輩の画僧であったフラ・アンジェリコと対比される生き方で語られることが多い。僧侶でありながら、修道院の尼僧と駆け落ちし、一子フィリッピーノをもうけるなど、聖僧として一生を送ったアンジェリコとは人生の軌跡が正反対のように理解されやすい。ヴァザーリによると、フィリッポは若いころから女性好きで、彼女をものにできぬ時にはその女性の肖像を描くことで自分を慰めたというのである。真否はさておき、そのような眼でフィリッポの絵画を鑑賞することも一興である。フィリッポは、フィレンツエのカルミネ修道院で修道士をしたので、当然マザッチョに親しんでいたであろう。ロレンツオ・モナコの工房で絵の修行をするなどして、画家として独立し多くの作品作りに携わる。この作品では、左の窓からくる光が聖母にかすかな陰影を施し、的確な線が彼女の量感を表現している。イエスと頬ずりする表現は珍しく、また聖母に光輪がないのはイタリア絵画としては初めてのこととされる。絵の依頼者が教会か貴族か大商人かはさておき、僧侶画家としてこのような世俗化した新規のスタイルの聖母子像を描いて依頼者に満足してもらっているのは当時の社会的雰囲気がこれを許したとはいえ、フィリッポの一歩前進する勇気は相当のものである。

  • AP26

1440年 聖母子/Madonna and Child(ワシントン) Tempera on panel

この作品の聖母には、類型化された聖母のイメージはまったくなく、フィリッポは前作以上に市井の女性そのものをモデルにして忠実に写生している。宗教的な荘厳性や威厳を持たせる工夫はまったくみられない。聖母にあやかって、彼の好みの女性を描いているように思える。本稿でもこれから「聖母」ではなく「マリア」と表現したい。

このマリアは、まだ幼さを面影に残しており、おそらく歴史上の実在のマリアもこのように年若かったであろう。エイクやロヒール・ウェイデンらのフランドル画家は成熟した女性としてマリヤを描いたが、フィリッポは歴史上のマリアのイメージを大事にしたのであろう。フィリッポのマリアは宝石をつけず、手の凝ったデザインのついた衣服をまとってはいるが、煌びやかなものではなく、また全体の色調も穏当であり、実在の装飾感覚を示している。前作のマリアとモデルは明らかに異なる。

  • AP27
  • AP27-2

1452年 聖母の人生物語と聖母子/Madonna and Child with Stories from the Life of the Virgin(ピッティ) Tempera on wood

フィリッポは、プラートの大聖堂内陣の壁画制作のため同地に移住するが、同時期に描かれたこの絵は彼が画家として熟練した証でもある。聖母子の背景に描かれているのはマリアの人生史で、左側奥はマリアの誕生場面である。マリアは、あいかわらずの街娘然としているが、モデルは(AP27)と異なる。

  • AP28
  • AP28-2

1455年 聖幼児への礼拝/Adoration of the Christ Child with St.Joseph,St.Jerome,St.Hilarion,St.Mary Magdalen and Angels(ウフィッツイ) Tempera on wood

キリスト誕生に聖人が登場する構成は、フィリッポのこの作品が絵画史上最初のようである。それはともかく、聖母らしい宗教色が満ちたこのような絵をかくのもフィリッポの一面である。モデルは(AP28)とは異なる。優美一色である。

  • AP29
  • AP29-2

1460-65年 聖母子と二天使/Madonna and Child with Two Angels(ウフィッツイ) Tempera on wood

フィリッポがプラトー大聖堂の仕事をしていた時に、尼僧ルクレティアをかどわかして出奔させた事件が起こる。この絵のモデルは、そのルクレティアと一子フィリッピーノとする見解があるが、この絵の成立時期に諸説あることもあって意見が帰一しないようだ。それはともかく、世俗化されたマリアを描いた美術史の多くの絵画にあって、この絵画の人気は不動のようだ。マリアの髪を覆うレースの精妙な装い、紺の衣装の襞の細やかさなど描写はフィリッポの技術力を誇示している。マリアの顔立ちも、長いまつげが印象的で、やや物悲しくい見える表情もイエスに両手を合わせて下方を向く角度とマッチしこれ以外にはあり得ぬくらい極まっている。

  • AP30

1463年 若き洗礼者ヨハネらのイエスへの礼拝/Adoration of the Christ Child with the Young St.John the Baptist.St.Romuald,Angels,the Hands of God the Father and the Holy Ghost as a Dove.(ウフィッツイ) Tempera on wood

フィリッポは、メディチ家に重用されたが、この絵もメディチ家に飾られたもの。同種のヴァージョン構図で複数のものをメディチが購入している。マリアのモデルは(29)と同一であろうか。

  • AP31
  • AP31-2

Artist

目次へ戻る
PAGE TOP