24年11月2日
四宮吏桜(シノミヤ リオ)さんは、人気上昇中のミュージカル女優さん。故郷の福岡から上京して本格的な活動に入る。浅利演出事務所ではミュージカル「夢から醒めた夢」の主役ピコを2度にわたり演じて、好評だった。今回の撮影は丸の内のど真ん中にある路地。大型ビルの狭間にアナログ感満載の雰囲気が残っているが、吏桜さんにラフな装いで佇んでもらった。少しエキゾチックな顔立ちが陽の陰りつつある中でひときわ存在感を示してくれた。
24年10月1日
20世紀フランス構造主義を代表する哲学者ロラン・バルトが晩年に描いた素描が数十点日本に存在する。彼が1980年に交通事故で死去したのち、その素描が散逸するのは忍びないと考える日本のファン46名が全員ですべての素描を共有して後世につなごうとするユニークな組織が存在している。各自が抽選であたった素描を一枚づつ2年間「預かり」それを2年後の展覧会に持ち寄り、その際に新たな抽選であたった素描をまた持ち帰るのである。1985年から開始されたこの企画は9月に新宿柿傳ギャラリーで12回目が開催された。アマチュアの手慰みと切り捨てるには惜しい、オリジナリティのある作品が展示され壮観だった。私の知る限り、フジコ・ヘミングやマイルス・デイビスの絵画のユニークさに通じる味のある作品であった。
2024年9月1日
鈴木万祐子さんは、横浜生まれ、横浜育ちのハマッコ。3歳からモダンダンスを習い始め、ジャズダンス、タップダンス、クラシックバレエ、声楽の研鑽も積んできた。洗足学園音楽大学ミュージカルコースでは卒業時優秀賞を受賞。その後、浅利演出事務所の「オンディーヌ」、「夢から醒めた夢」に出演するなど、芸域を拡げて成長している。撮影したのはまだ寒さが残る木漏れ日が気持ちよい日。彼女の帽子姿は初めて見たが、背景にフィットして愛らしかった。
2024年8月2日
カメラの楽しみの一つは、ミクロの世界に没入できることだ。ガクアジサイの花心に迫ると、おとぎの世界である。シベの林に迷い込んで揺蕩うと夢を独り占めできる逍遥となる。
2024年7月1日
5月にオーストラリアゴールドコーストへ行ったときに波止場で撮影した。カモメの撮影は初めてだったが、その立ち姿は楚々として、カモメにも美人がいるものだと思った。嘴と足が紅色でこれも美しい。斜光のなかで佇みこちらに顔を向ける姿は役者そのものであった。
2024年6月1日
5月11日京成バラ園で撮影。2006年フランス メイアン作出の「プチ トリアノン」。マリーアントワネットがこよなく愛した宮殿のイメージにピッタリである。今年は、昨年から1週間程度は早く開花していて、そのせいでもあるが、予期していなかった薔薇に出会うことが出来た。白を基調にしたほのかなピンク色は清楚なイメージを包み込んでいて、大満足である。フジT-X5のプレビアを選択したが、色味も満足である。
2024年5月1日
例年にならい、半蔵門にある国立劇場前の神代曙の撮影に行って満足するできだったが、桜のわきに楠木があり、いずれは堂々たる大木が期待される若い佇まいに気をひかれ、新緑を写した。報道によると、国立劇場は取り壊されるがその後の新建物の設計が確定していないとのことで、それ次第では、桜もこの楠木も伐採の憂き目にあうことになる。いかにも残念なことで、この若き楠木の命が永遠なれと祈るばかりだ。
2024年4月2日
小田原文化財団 江之浦測候所は相模湾を眼下にしたみかん園から美術家杉本博司さんが創り上げた1万坪の空間。庭園でもあり、古刹でもあり、遺跡でもあり、なによりも太陽の光をとらえる現代空間を造った不思議な場所である。マヤのチチェン・イッツア遺跡エル・カスティーヨを想起する。地元で採石した根府川石をふんだんに使って踏み石とした景色も見事である。その先にあるのは東大寺七重塔礎石。由緒ある石があちこちに鎮座して存在感を放っている。世界に類例のない杉本ワールドの誕生だ。
2024年3月3日
浮き上がる紅梅
東横線田園調布駅西口から正面の道路を200メートル行くと突き当りに宝来公園がある。斜面を利用した公園は5000坪もあるだろうか。高木が多く、昼間も薄暗く、周囲は高級住宅地で通る人も少ない。寂しくて子供一人で遊ばせるには物騒な雰囲気である。この公園の500坪くらいの広場が梅園になっており、周囲を高木が囲む。2月18日朝は日差しが回ってきて、中央の紅梅を浮きだたせた。昨年購入したオリンパスOM-1の300ミリで手持ち撮影した。
2024年2月3日
星えり菜さんは東京生まれの東京育ち。小学校時代からクラシックバレエ一筋だったが、高校のとき慶應義塾ニューヨーク学院に留学した際に本場のジャズダンスなどに開眼。慶応大学総合政策学部で学ぶ一方、ストリートダンス、歌、演技など幅広く挑戦し、卒業後は、浅利演出事務所の「ユタと不思議な仲間たち」「ミュージカル李香蘭」「オンディーヌ」「夢から醒めた夢」などに立て続けに出演している。立ち居振る舞いにエレガントな雰囲気を身にまとっているお嬢さんだが、今回は思い切って街路の真ん中でジャンプしてもらった。
2024年1月5日
2023年年末にサロマ湖の撮影に行った。サロマ湖はオホーツク海に接しているため内陸ほどには気温が下がらないが、この冬は例年よりも暖かく、氷結もゆるかった。一番面白かった被写体は、雪原の道路わきに頭を出すイヌヨモギ(?)が作る景色で、どこでも面白いリズムを醸し出していた。
2023年12月25日
今年は夏が暑く長かった。おかげで紅葉が全般に遅くなった。この写真は、世田谷九品仏で撮影した。境内では都指定の大銀杏が有名だが、ここ10年来は、植樹されたカエデが順調に育って鑑賞に十分堪えられるようになった。12月11日には、盛りのカエデに銀杏の葉が落ちて引っ掛かり、赤と黄のハーモニーが景色になっていた。中判カメラで撮ったので背景がボケて妖艶な赤に包まれた雰囲気になり美しい色合いである。今年の暮れを飾る一枚となった。
2023年11月25日
伊藤稚菜さんは、西宮市の出身。生まれてから大学(関西学院大学)まで同市で過ごした。小学生の時に「美女と野獣」を観劇してミュージカルに憧れ、ダンス、声楽のレッスンを関西の名門ダンススクールで続けてきた。今年5月の「オンディーヌ」で浅利演出事務所にアンサンブルに抜擢され、さらに10月の「夢から醒めた夢」にも出演した。歌と踊りのワンマンショーにも意欲を持つ前途有望の女優さんである。彼女の眼差しは情熱的に夢を見つめている。
2023年11月11日
安食ひろ(あじきひろ)さんは、故郷出雲で作陶を始めて約50年。茶の湯と深く結びついた焼物で世界的に評価されている。還暦に引退宣言をして以降好きなままに創作活動をしているが、絵画を表装して床の間に飾るかねてからのアイデアを実行された。これは、ピカソのゲルニカ。あの大作を凝縮して床の間に見事に収まった。和紙に描くタブローで、限りなく原作品に近いが、模写そのものではなく色付けを含め安食さんの遊び心が表現されているから、再現ではなく再生というべきだろう。息子の潤さんの茶器と二人展を新宿柿傳で開催されたが、シャガール、アンリ・ルソー、マチスなどの名画が掛軸仕立てで蘇り、見事な展覧となった。床の間ではなく、豪華な洋室の壁掛けとしても人気を博すことは間違いがない。
2023年10月22日
神代植物園で秋薔薇の撮影をした。ゴールデンスリッパーズと名付けられたこの花は1960年にフランスで開発されたもの。神代には古典的な種類のものが多く咲き、長い時代人々に愛されてきた安定感がある。色合いがどぎつくなく香り豊かな橙色が魅力的であった。その他も含めて17枚を薔薇のフォルダーにアップしたのでご覧ください。
2023年10月1日
Fさんは、社会人としてホテル業界に身を置いたのち、和食の研鑽のため都内の高級懐石料理店に勤務している。その傍らでソムリエの資格も取得するなど努力家である。かねてから撮影のモデルをお願いしていたが、やっと願いかなってポーズをとってくれた。丸の内のビジネス街での撮影となったが、短髪が色白で清楚な雰囲気にピッタリで、誰もが振り返る撮影現場となった。
大相撲秋場所は、貴景勝の優勝で終わった。熱海富士はあと一息だったが、ヒーロー誕生といかなかったのは残念だった。この写真は11日目の取組で、小結翔猿を左上手投げで豪快に投げ飛ばしたもの。格闘技のだいご味はリアル観戦にあると再認識した。大相撲は写真撮影には好意的で、おおらかで良き伝統が残っている。最近の風潮に照らすとありがたかった。
2023年8月31日
山岡鉄舟、三遊亭円朝の墓で有名な谷中の全生庵では、円朝の幽霊画コレクションを毎年8月に公開している。幽霊話の創作落語を数多く演じた円朝ならではのコレクションでほの暗い室内に約50点の幽鬼が浮かびあがり、想像力の豊富さに心を奪われた。本堂床の間にあった掛軸を撮影したのがこの写真。ご住職のご説明によると、河鍋暁斎(きょうさい)が円朝を描いたと言われる。インターネットで検索する円朝の風貌とは全く異なる人物に見える。暁斎のこの肖像画は、ほとんど世に知られていない。近世日本画の研究は最近拍車がかかってきているが、研究が未知の分野があまりに広い。円朝の真の姿をめぐるミステリーには幽霊画以上に興味をそそられた。
2023年8月9日
マティスの代表作で多くの方がご存じだろう。東京都美術館でマティス展が開催されている。2004年に国立西洋美術館で開催されたマティス展の図録が手元にあって情報をまとめるにはいい機会と思い、マティス絵画163点を整理してアップする。マティス美術館とは少し大げさだが、これだけマティス絵画を一覧できる一般媒体は少ないから許されるだろう。コロナ前、ウクライナ戦争前に、マティスの優品を多く所蔵するエルミタージュ、ボルティモア、ポンピドーなどで撮影できたのは運がよかったとしかいえない。この絵は2017年1月ポンピドー・センターで撮影した。
2023年7月25日
我が家に小鳥用の餌入れを樹木にぶら下げたところ、シジュウガラが真っ先に餌をついばみに来た。餌は、雑穀とひまわりの種だが、シジュウガラはヒマワリの種だけを食べ、その余は餌入れから派手に弾き飛ばす。下に落ちた餌はハトや雀がつつく。餌入れを管理する孫娘が、ヒマワリの種を土に埋めたらそれが開花したのがこの花である。シジュウガラが食べたヒマワリの種の数は数えきれない。その種を全部開花させたらどんなに見事な庭になって人間の眼を楽しませたかと想像するが、シジュウガラのお腹に入ったのも生命をはぐくんでくれた。この世には無駄なことは存在しない。
2023年6月25日
マコは、静岡の出身で高校時代にも舞台でバックダンサーをするなど、小学校からダンスと声楽で鍛えたキャリアを活かしてきた。上京して音楽大学3年生のときに浅利演出事務所公演の「ユタと不思議な仲間たち」のオーディションに合格し、その後も「夢から醒めた夢」、「ミュージカル李香蘭」にも出演し、すっかり浅利ファミリーの一員になった感がある。この6月には、明治座の水谷千重子50周年記念公演の芝居で着物姿での時代劇にも登場した。撮影をしたのは、丸の内の仲通り。この日は道路を芝生広場に仕上げてあり、その中で楽しそうに動き回るマコはお茶目な少女の表情をのぞかせて幸せそうであった。
2023年5月28日
今年も京成バラ園、神代植物公園を訪れた。全国的に桜開花が例年より前倒しだったが、薔薇も同様の傾向だった。この薔薇は、2023年5月5日撮影。京成バラ園のブリーダー武内俊介さんが2003年に発表したフロリバンダ系統の「きらら」。赤白のちりめんの感触を持つ模様は日本的ではなやかだ。模様にくどさを感じると好まない人もいるかもしれない。この日は光を浴びて花芯が浮き立ち、魅力的だった。
23年5月3日
初代柏原三右衛門が1645年に京都五条に構えた居宅が1974年に洛東遺芳館として開館され、春秋に所蔵の美術品が公開展示されている。この春は(5月5日迄)、三井家(?)から嫁入り道具として持参された合わせ貝1232枚が展示されている。ハマグリに描かれる文様は、源氏に範をとった人物画や花鳥風月だが、微細な職人芸を堪能できる。装飾的な大胆なデフォルメを施した絵柄はどれも素晴らしく楽しい。円山応挙、芦雪、呉春、光貞などの秀作をわき目にして、この日はひたすら貝の撮影となった。
2023年4月5日
今回紹介する畠中ひかりさんは、愛知県出身。4歳からクラシックバレエを始め、その後ジャズダンスなどに取り組んでいたが、短大1年生のときに大手テーマパークのパレードダンサーに合格して上京した。その後、浅利演出事務所「ミュージカル李香蘭」やその他多くの舞台を積み、ダンサーとして着実に実績をあげている。4月29日開演の浅利演出事務所「オンディーヌ」には水の精で登場する。撮影日当日は、レオタード姿であらわれて撮影者をたじろがせたが、立ち姿をはじめ動作は基本に則って身体の線をきれいに表現するすべをわきまえており、撮影は順調に進んだ。プロフィールも素敵なものが撮れたが、今回はダンサーひかりのこの一枚。
2023年2月27日
2017年3月に浅利慶太がジャン・ジロドウの名作オンディーヌを演出してから早6年。今春4月29日から5月6日まで浅利演出事務所によって自由劇場で再演される。主役は前回と同様に野村玲子さん。憧れの騎士を見つめる純真無垢なオンディーヌのまなざしは、玲子さんの素がそのまま溢れている。今回の公演を楽しみにしたい。この写真は前回の玲子さんのもの。
2023年2月23日
河津桜は春一番と重なって満開になり、時折冷たい風が吹く中でも空気の暖かさを感じさせる。世田谷尾山台の住宅地にある河津桜を陽気に誘われて撮影した。花びらが光に透け、紅い蕾と空の青が彩を添え、形の良い蕊が愛嬌を振りまく春のひとときが詰まっている。
2023年2月3日
美術漫歩で、女性画に引き続き男性肖像画38選のアップを開始する。この男の肖像は1475年メッシーナによるもの。描かれた男性の気力横溢した顔つきは、軍の司令官との解釈を生んだほどの迫力である。無名の肖像画から、著名人の肖像画まで絵画自体の魅力を発揮したものを厳選する。なお、自画像は今回のシリーズに含めていない。
2023年1月2日
2022年暮れに23年ぶりに冬の裏磐梯を訪ねた。五色沼をスノーシューで探索して、青沼を裏側から俯瞰した一枚。すべての樹々が白い華で覆われてアブストラクトな魅力が満載だった。湿気のせいか雪のつき方が北海道と異なる印象である。
2022年12月6日
京都八瀬の妙傳寺の本尊は、如意輪観音半跏像。隋や唐の様式を取り入れた像は最近の研究で朝鮮三国時代の制作であることが判明している。現在は、東京国立博物館に寄託され公開されている。東洋館5階奥に展示され、トップライトで豊かな下瞼が妖しく光り、鑑賞者を見つめる眼付にはぞくっとするオーラが満ちていた。この像を偶然に拝見したあと、八瀬を訪れ、撮影の許可を求めた。これは困難であったが、博物館のデータ提供を受けてブログに公開する許可を得られた。私自身の撮影ではないデータはブログに掲載しないことにしているし、私の受けた印象が反映されている映像ではないが、皆様にもそれを想像していただき、この仏様に出会った感動が少しでも多くの方に知っていただくためにあえて禁を犯そう。いつのときか私自身で心行くまで撮影できる日が来ることを祈念する。(菩薩半跏像 頭部左斜側面・朝鮮・妙傳寺(八瀬)・画像提供東京国立博物館 Image:TNM Image Archives)
2022年10月30日
皆川梨奈さんは、福岡で幼少からクラシックバレエを中心にジャズダンス・タップダンスに打ち込んでいたが、短大を卒業後上京して多くの舞台やミュージカル李香蘭、ユタと不思議な仲間たちにも出演した。最近の人物撮影は、丸の内の事務所周辺を利用することが多く、この時も最後に仲通りの路上カフェで撮影した。梨奈の眼にはほのかな色気があるが、自然体でリラックスした撮影最後の場面で本来の持ち味がでた。
2022年9月18日
9月の初めに信州を旅した。嵐の直後で、雲が風に乗って低く山並みを舐め、湖面は雲の渦が映えて龍になり、フォトジェニックだった。白馬のソバ畑が稲穂とツートーンをつくり、栂池自然園は雨中で人出も少なく、狭い木道で姫スイバとゆっくり会話する時間もあった。その中で夏の終わりから秋の季節を一番感じたのは、雑草の繁茂だ。エコログサやヒメムカシヨモギが存在を誇示し、コスモスは脇役だ。
2022年8月14日
故浅利慶太作品の傑作「ミュージカル李香蘭」で主役李香蘭を演ずる野村玲子さん。戦前の満州で山口淑子は軍部の画策で「中国人」李香蘭として歌手デビューさせられ大スターになる。日本の敗戦とともに中国を裏切った「漢奸」として軍法裁判にかけられるが、日本人であることが証明でき、無罪になる。裁判で、彼女は歌う。「運命にもてあそばれて 自分の道 見失った 迷いつつ 生きてきた 私の罪」。トロイ戦争から数千年を隔てても、戦争は女性に抗いようのない苛酷な運命をあたえ、翻弄する。野村玲子さんは、劇団四季時代から30年間・800回を超える舞台を演じてきたが、その美しさは変わらない。写真は、裁判の場面。22年5月の公演は、コロナのため期間半ばで中止となったが、若い観客が多かったのは嬉しかった。
2022年7月7日
今春、東京国立博物館で開催された「特別展 ポンペイ」に出品された作品である。最近の傾向として、主催者が預かり展示するものでも撮影が許されることが増えていて、展覧会の楽しみが増えた。トロイ戦争で褒賞としてアキレスに与えられたブリセイスは、アガメムノンから横やりを入れられてアキレスから引き離される。この写真はブリセイスの部分をアップして撮影したもので、アキレスは左端に半身だけ映っている。背中を向けているのは、パトロクロスである。ローマ時代の貴族の世界で、ブリセイスの挿話が人口に膾炙していたことが分かり、興味深い。私としては、ワシントン以来、久々に美女に再会して、嬉しかった。
2022年6月6日
彫刻の撮影は、絵画と異なって、被写体の切り取り方が多様でおもしろい。絵画では邪魔になる照明が予期せぬ効果をもたらすこともある。ワシントンナショナルギャラリーに在るこのブロンズ像は、斜め上からの照明が眼に差し込み、異様な迫力が出ていた。ブリセイスは、ギリシャ神話でトロイ戦争に翻弄された女性。家族をアキレスに殺害されてその奴隷にされたが、彼女に眼を付けたアガメムノンとアキレスの抗争の原因になるなど、当時の美人が受ける過酷な運命に翻弄される。作品自体には際立った魅力があるわけではないが、ギャラリーの展示が光を取り込み、彼女の運命を強く訴えることになった。